fromで取り扱うプロダクトの生産に携わる方々にものづくりの背景を伺うfrom Magazine インタビューシリーズ。
今回はお花を象ったテーブルウェアを展開しているブランド『Kiwakoto』(キワコト)の 株式会社A・STORY ディレクター・吉村 優さんにご登場いただきます。
ブランド名は、古語で「格別であるさま」という意味を持つ「きわこと(際殊)」に由来し、その名の通り唯一無二のプロダクトを生み出しています。
聞き手:yuki shinohara , megumi endo , yui sakida
日本ならではの“KOGEI” を世界に向けて発信する、Kiwakotoのものづくり
--- 本日はインタビューをお受けいただきありがとうございます。まず、A ・STORYという会社のことや、ブランドKiwakotoをご紹介いただけますか。
Kiwakoto Director 吉村 優(以下、吉村) Kiwakotoは、京都の伝統工芸の技を生かしたプロダクトやサービスを生み出しているブランドです。
ブランドのスタートは、「伝統工芸 × カーライフ」という発想です。
こだわりを持った方々が乗る車に、工芸がうまくマッチするのではと思ったことからはじまりました。今fromで取り扱っていただいているテーブルウェアのシリーズは去年夏に販売を開始したものです。
車を装飾するビスポークサービス・クラフトカーで、車の内装で使う生地やインテリアパネル等に装飾する箔や漆の技術なども含め車を通して京都のいろいろな伝統工芸士の方々とネットワークを築いてきました。
私はディレクターという役割で仕事に従事させていただいていますが、工芸士の方々とお話するなかで、日本ならではの「工芸」という概念に強く共感しました。
「工芸」って英語では翻訳できる言葉が存在せず、ローマ字で「KOGEI」になる。
海外だとアーティスト(作家)/アルチザン(職人)は二極化しているのですが、日本の工芸士はアーティストとして自分の思う最高の作品を作り世の中に発表しながら、もう一方ではお客様のニーズに応えていくアルチザン的な動きを取る。
自分自身の感性を磨きながら、同時に市場のニーズや求められる技術を熟練させていく。
そんなアーティストとアルチザンを行ったり来たりする職業って、なかなかないと思います。そんな工芸士の生き方、工芸のあり方に、ブランド立ち上げ当初から強く惹かれてきました。
一点物を作る作家的な面と、機械をうまく使いながらものを量産する面。
この相反する二つをうまくミックスさせて発信するにはどうすればいいのかと考えました。
そして、コロナ禍で家で過ごす時間が長くなっている今、日本の美意識を器に落とし込んだテーブルウェアシリーズを開発することとなりました。
--- 記事でラグジュアリーカーとのコラボレーションを拝読しましたが、あれがビスポークのサービスですね。
吉村 はい。ブランド立ち上げ時から提供しているクラフトカーというサービスです。
工芸だけで世の中に発信していくのは限界があるので何かしら掛け算を生み出していこうと考えていて、車・カーライフをフィーチャーしました。
「今まで伝統工芸と車・カーライフを掛け合わせているところってなかったよね」と話したんです。
ブランドをリリースしたのが2018年の「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 」で、その時のイベントのメインスポンサーがBMWさんだったということから、BMWの車の内装をデザインしたものを展開しました。
その後、実績やノウハウを積み重ねていくことで、日本の工芸を活用した限定車のプロジェクトでご一緒させていただくこともできました。
--- レクサスもそうですけど、最近車に日本の伝統技術を使うところも増えてきていると思うので、そういった流れともマッチしているように思います。
吉村 クラフトカーやカーライフを中心にとらえた商品開発では、いわゆる“一点物”の「個体差があって楽しい」「人と被らない」といったところを大事に取り組んできました。
一方で、テーブルウェアシリーズは先ほど申し上げたようにより多くの方のライフスタイルに取り入れていただける、作家と職人の中間に立つ商品を提供したいという思いからスタートしました。
ですから、職人の手仕事が生産工程に入ります。個体差があることが美しく魅力となるテーブルウェアを追求しながら、一定の品質を保ち、数を作ることのできる体制をKiwakotoが中心となって構築することで、職人がより多くの仕事を手掛けることができるのです。
このような新たなものづくりにチャレンジしています。
コロナ禍での新たな挑戦 後発としてのテーブルウェアブランドの在り方
--- お花を象った器等のテーブルウェアの展開にあたり裏話や開発の苦労をお聞かせいただけますか。
吉村 世の中にテーブルウェアはすでにたくさん出ている中で、後発の後発である我々がやる意味やどう展開していくのかなど頭を悩ませました。
コロナで外に出られない状況にあっても日本人が元々持っている自然への賛美や、自然と共生すること、自然を愛でる感性をうまく食卓に持ってくることができないかなと考え、和花をモチーフに家紋を作るように図形に落とし込んで器にすることにしました。
海外の方から見ても、日本人にとっても、愛でる象徴でありつつ普段使いできるものに落とし込むというのがテーブルウェアシリーズで試みたことです。
--- グラフィックデザイナーとコラボレーションして作られたとお聞きしましたが、どういうきっかけがあったのか、背景も教えていただけますでしょうか。
吉村 海外の方々がぱっと見て「SAKURAね」っていうことではなく、もう少し深いところで「日本の美意識、物作りっていいよね」と感じていただけるようなアイテムにしたかったんです。
そういった思いから、情報を視覚的に第三者へ伝えることをミッションとしているグラフィックデザイナーを起用し「伝統工芸の魅力」という情報を視覚化することにしました。グラフィックデザイナーは、どう見せていくのか、どうやってストーリーを世の中に届けるのかということを含めて形にしてくださる方々だと。
プロダクトデザイナーはものを作ることのノウハウは豊富で「この機械であればこういう設計図であれば綺麗にできるんじゃないか」というようなことをいろいろ考えてくださるということは、これまでの経験上理解していました。
けれど今回の器で我々は後発も後発。「こんなものあったらいいよね」とか「こういうふうなものが今世の中に求められてるんじゃないか」という理想だけで作っていただいて、あとは自分たちで培ってきたネットワークやノウハウを駆使してなんとか形にするということをやりたかったんです。
--- 素晴らしい取り組みですね。僕はプロダクトデザイナーですけれど(笑)、嫌な意味ではなく、ものづくりのプロセスとしてはすごく良いやり方だと思います。
プロダクトデザイナーも実際はそういう理想像を描いて、技術面ではちょっと無理をお願いしながら進めたい思いが最初はあるんです。けれどやっていく中で、製造ノウハウがあるがゆえに「これは難しいよな」とか「これをお願いするのは気が引けるな」というようなバイアスが入ってしまう部分もあって。
その部分を知らない方にあえてお願いすることでバイアスを払拭して理想を追求したものづくりができるというのは、良いプロセスだなと思います。
吉村 我々はモデリングの作業を大事にしています。今回の器で一番大変だったのが、2次元のデザインを陶芸家が3次元にしていく過程でした。
作家の感性をうまく取り入れたかったので、「一番大きいサイズは直径26センチでお願いします」というようなことだけ伝えて、それ以外の高さや深さ・ディテールは、作家さん自身の考える使いやすさや美しさを形にしてくださいとお願いしました。
はじめはプレートに寄ったものが上がってきて「ちょっとこれはさすがにプレート過ぎる。洋食屋さんに出すものではないから違うんじゃないか」といった話になり、そうすると次は思ったより深いものが上がってきて「うどんを食べるにはいいけど普段使いは難しいかも」といったことの繰り返し。
二次元で制作した図をもとに、工芸士さんと「これがいいんじゃないか」「もっと淵は丸みをだしてほしい」「繊細さや緊張感を感じるようにもっと薄く」とラリーのようなやり取りになりました。職人的な面も持つ工芸士ではあるものの、自分がいいと思ったものを世の中に出している作家的側面もお持ちなので、ブランドとしてものづくりをしている我々としてはどこまで追い求めるのかのせめぎ合いが難しいポイントでした。
吉村 そうですね。
--- 本当に新しいコラボレーションのあり方ですね。プロダクトデザイナーだと、側面含めた3次元のモデルを作って、全部やっちゃうので。
吉村 モデリングをしたものをうちの従業員に実際に使ってもらって「使い勝手どう?」といったやり取りを経て、プロトタイプを決めて量産フェーズに入りました。
器を量産していくときの基準を分かっていたわけではなく、手で作る最終系をなんとか量産化したいという思いだったので、型屋さんに行ったときに「こんな薄いものは作れないよ」と言われてしまったり。
--- うん。
吉村 「だけど僕らはこれを作りたいです」と掛け合って。2次元を3次元にすることと、立体にした個体を量産することの二つ、ハードルがあると感じました。
側から見たら「君達おかしいんじゃないの」と思われるんだな、と理解したエピソードがあります。
我々は今回鋳込み成形という、泥を流し込む穴がある型に空気が入らないように圧力をかけながら土を流し込んで器の形にする技術を用いています。
器に一定の厚みがないと型から取り出せなかったり、ハマというところに圧力がかかることによって下がってしまったりなど、難しい技術なんです。そういう理由で世の中にある量産の器は一定以上の厚さになっている。
鋳込みだけで最終形態を実現できないのであれば、途中までは鋳込みで、もう一度職人に戻して、職人がそれを削って、という手段を使ってでもプロトタイプに近づけるしかない。それで、鋳込んだ土を乾かし、我々が職人の元へ届けることにしました。
焼く前の生の粘土の状態を運ぶのですが、普通の粘土が固まっただけの状態なので、初めの方は運び方もわからず、車でちょっとした道でガタンとなってしまうだけで折角運んだ器の半分ぐらいが割れてしまって。
「そりゃそうだろう」「粘土の状態で運ぶやつがどこにいるんだ」と、他産地さんには言われました。
けど、それを徐々に積み方等工夫することによって、今ではほぼ割れずに運ぶことができるようになっています。そこまでこだわることでこの薄造りならではの表現ができているというのが、我々がブランドとして展開することで実現できていると感じているところですね。
--- おもしろいですね。誰もやりたくないところをやるからこそ可能な差別化に繋がっている。
実物を見ていただくと本当に薄くて、ちょっと緊張感が生まれるくらいなんですよね。すごく良いプロダクトだなと僕も拝見して思って。
はじめて吉村さんと出会ったのはギフトショーなんですけれども、弊社の遠藤と一緒に「なんだか目を引くね」とKiwakotoのブースの前で一瞬立ち止まってしまったんです。職人さんがそうやって手間を加えていると伺って納得しました。
--- 実際購入したお客さまからはどういうお声や感想がありますか。
吉村 リアルの店舗・催事含め、いろんな場所でお客さまと接点を持たせていただいているんですけれども、買われる前は「割れそうだけど大丈夫?」とか。
--- うん。
吉村 不安要素から入られる方が多いです。
けど、「食洗機使えます」「電子レンジ使えます」「長石っていう石を多く含んで作っているのでシミになりにくいです」とお伝えすると、「そうなの」と。
「割れそうなのに」「焼き締めのお皿ってシミになりそうなのにそういうことにならないの」「じゃあ一度使ってみるわ」とご購入いただいて、その後ありがたいことに同じ形の色違いのものをご購入いただくことも多いです。「集めるのが楽しくなってきた」と言っていただいて。
日常の中に取り入れていただきたいという思いで展開したものなので、「思ってたより本当に使いやすくて、大事な日しか使わんものかなと思ってたけど、毎日のように使ってます」というお声など、きちんとお客さんに届いているのを聞くと非常にありがたいですし、嬉しいです。
--- 僕たちも見ていてテンションが上がるので、そのお声には共感します。
僕は「空」のシリーズが好きです。
fromではまだラインナップとしては「ASAGAO」などしか扱っていないんですけれど、実はもっといろんな形のお花の種類もあるので、季節に合わせて弊社でもシリーズを増やしていきたいなと思っています。
ASAGAO 空
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